元公務員のTAC講師によるコラム 元外交官が解説⑤
◎講師紹介
横生 健(よこお けん) 講師
元官僚。外交官として、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ他で活躍。外務、防衛の他、経済産業省、国際機関、地方自治体などの職務を経験。
現在はTAC・Wセミナーの国家総合職、外務専門職講座で面接、官庁訪問対策を中心に講師として活躍中。
外交官の醍醐味は、何といっても国境を越えて国際的に活動することです。そして、どこの国も文化が違います。様々な文化を巡りながら、外交の職務を遂行します。
異なる文化
外務省に入省すると、外務本省と在外公館の両方に勤務していきます。皆さんが大学卒業後に入省したとします。定年退職するまで、長ければ40年以上のキャリアです。仮に半分を在外で赴任したとすると20年以上になります。一国3年勤務すると、多ければ7か国以上の国を知ることになります。それは、旅行や出張での短期滞在ではありません。その地に長期に暮らし、文化に浸り、地元の人と付き合いながら職務を遂行するのです。
せっかくの人生ですから、多くの国での生活を経験する、そんな職業を選択するのも興味深いものです。日本文化をしっかり土台にしながら、世界中の文化を巡りつつ外交活動を行う、異文化をまたいで仕事をする醍醐味があります。
■写真:<出典>外務省HPhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/expert/int02.html
違い
文化や習慣の違いは興味深いです。
新しい国に赴任した時、まず、時間はどの程度守られるかを観察することにしています。時間ちょうどなのか、普通に何分くらい遅れるのか。良し悪しというより、その土地の習慣や考え方を知るための手掛かりになります。
ある国では、15分くらいは範囲内でした。ある国では、一時間くらい。時間の観念が緩いほど、なぜ遅れたかなどに拘らなくなります。そういう国では、なぜ遅れたかと絶対に聞いてはいけません。
約束をどのくらい守るか、というのも同じです。会う約束をした場合、約束通りに来る、遅れても来る、あるいは、来ない。何事もその場にならないと分からない国もありました。この場合も、来なかった理由を聞いてはいけませんでした。何事もなかったかのように、物事が進んでいきます。
時間や約束にルーズな国に勤務していて、いつも怒っている同僚もいました。結局は慣れて、その土地に合った行動をするしかないようです。違う文化に接したときは、「変だ」と思うのではなく、「面白い」と考えた方が精神衛生上良さそうです。守れない約束をするのは、NOと言うのを避けるためが多いようです。実際に約束を守れなくても、お互いに当たり前として気にしない、そんな行動様式を選んでいるのでしょう。
■写真:<出典>外務省HPhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/dpr/page22_003494.html
対応策
こんなに違う環境では、一体どのように行動したらよいのか迷うことも多いです。日本人としては、時間は正確、約束は必ず守るのが普通です。経験から学んだのは、複数の基準を使い分けるしかない、ということです。相手や場合により、会合に着く時間を調整します。内容と相手により、約束の確実性を判断する。そして、対策を立てたり、心の準備をしておくなど。
一例を紹介します。行事が行われる場合も、国によって、遅れる程度が異なります。時には、何時間も遅れることがあります。その場合は、いくつかの遣り方があります。
時間通りに着いて待つ、ただし待ち時間を過ごすために本を持参する、スマホで仕事をするなど。ネットが範囲外の場所もあるので、スマホが使えないこともあります。なかには早く来る人もいるので、話をしてネットワークを広げるのもいいでしょう。思いがけなく貴重な情報を得ることもあります。普段は会えない人と話す機会を得ることもあります。
または、スタッフに先乗りしてもらって、現場の報告を受ける、そして、タイミングを計って到着するのも手です。電話で主催者に問い合わせてもいいのですが、連絡がつかなかったり、すぐ始まると言われても、行ったら全く始まらないなど、いろいろな事が起きます。
■写真:<出典>外務省HPhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/dpr/page22_003653.html
常に日本文化を土台に
異なる文化を体験すればするほど、土台に日本文化をしっかり持つことの重要性を感じました。日本人の心を持っているからこそ、異なる文化を理解して、上に見ることも下に見ることもなく、柔軟に対応することが可能になります。
■写真:<出典>外務省HPhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/
press/staff/challenge/int35.html
日本の伝統、歴史、文化など、何かと質問されることも多いです。しっかりとした知識を持ち理解していることが重要です。土台があると、話の中で自然に湧き出てくるので、相手から信頼され、尊敬されます。相手国の文化を褒めているだけでは限界があります。国際社会で、自分の属する国や文化を理解して誇りに思っていない人が尊敬されることはありません。お互いの誇りを尊重しあい信頼関係を築いてこそ、円滑な外交活動を行うことが可能になります。
外務省に入ってから、長期間の研修を行い、日本を知る講義を多く受けるのは、そのためです。在外研修に出て、日本人は自分だけ、異なる文化が混ざり合う環境に入って実感していきます。
皆さんが外務省に入って、日本をよく知り、誇りを持った外交官として活躍されるのを切望しています。
外交官になるためには国家総合職と
外務省専門職の2つの道があります。
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