元公務員のTAC講師によるコラム 元外交官が解説③

◎講師紹介
横生 健(よこお けん) 講師

元官僚。外交官として、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ他で活躍。外務、防衛の他、経済産業省、国際機関、地方自治体などの職務を経験。
現在はTAC・Wセミナーの国家総合職、外務専門職講座で面接、官庁訪問対策を中心に講師として活躍中。

 一口に外交といっても、いくつかの類型があります。大きく言えば、「二国間」=日本と特定の国との外交関係です。そして、「多国間」=多くの国が同時に関わってくる外交関係です。

二国間外交

 在外にある日本大使館の仕事は、殆んどは駐在する相手国との関係になります。外務本省で「地域局」に配属された場合も二国間の外交が主になります。

 大使館のある一日を辿ってみましょう。館内には、総務、政務、経済、開発協力、広報・報道・文化、領事、官房などの班があります。

■写真:在英日本国大使館
<出典>外務省HP
https://www.uk.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 例えば、政務班の場合、地元のラジオ・ニュースを聴きながら車で出勤します。朝から大きな事件があるかもしれません。

出勤後は、当日の地元紙を複数確認します。政治・経済の大きな動向、日本に関係する記事などをチェックします。その日は、大統領選挙の翌日でしたので、選挙結果と分析を外務本省に報告しました。

外務本省から何か指示が来ていないかも確認するでしょう。その日は日本人が立候補している国際選挙で、日本支持を求めるよう指示が来ていました。

地元の外務省のしかるべき人にアポイントを取って出かけます。立候補の目的、候補者の情報などを伝えて支持を求めます。担当者からは良い反応がありました。選挙の日まで、着実に働きかけを続けていきます。

 開発協力班はどうでしょう。今日は、これまで協議してきた開発協力案件のE/N(交換公文、案件を実施するための合意文書)を署名する日です。

日本は、無償資金協力として、10億円で医療機材を供与することになりました。コロナ禍への対策にもなります。署名するのは日本国特命全権大使と相手国の外務大臣です。

任国外務省の担当者とは、数週間前から式次第や署名文書の内容を確認して万全を期しました。会場である外務省に先乗りして準備を整えます。日本大使と外務大臣が到着して、無事に署名を執り行いました。

 同時に、広報・報道班も関わります。事前に記事資料を地元プレスに配布、署名式当日のプレス取材を手配、大使のプレス・インタビューの実施などです。

地元外務省と協力して進めます。10億円の援助案件が合意されたことを、広く地元で知ってもらうためです。日本は良いことをしている、それを周知することは重要です。


 海外に住んで活躍される日本人もたくさんいらっしゃいます。海外の邦人を保護し、お世話するのも大切な仕事です。コロナ禍の際は、緊急に飛行機便を手配して日本に帰る支援もしました。また、日本企業の海外進出、進出先での問題を解決するお手伝いもします。現地にいる皆さんから頼りにされる存在です。

多国間外交

 多国間外交は、複数の国との関係を同時に司る外交です。在外にある国際機関の日本政府代表部が担うことが多いです。外務本省では、事項別担当の機能局における仕事が多いです。

 経済開発協力機構(OECD)を例にとりましょう。加盟国である日本は日本政府代表部を通じてOECDに参画しています。OECD本部はパリにあり、日本政府代表部もそこにあります。

OECDには多くの委員会があります。理事会、予算委員会、経済政策委員会、開発援助委員会など多岐にわたります。

今日は、開発援助委員会に出席します。事前に配布されている会議文書を読み込んで、発言すべきポイントを整理します。

重要事項は外務本省の意見を求めて指示を受けています。議場には議長席と加盟38か国の代表席が設けられています。タイミングをみて発言を求め、日本の立場を説明します。

 最初に発言してリードするか、いくつかの反対意見が出たところで有効な反論を行うかなど、発言するタイミングも含めて戦術を立てていきます。なお、OECDでの公用語は英語とフランス語で、常に同時通訳が用意されています。
両方できる人は通訳イヤホンを耳にしていません。英語専門であっても、かかる機会を使って仏語を習得して、任期中に通訳なしで二言語対応できるよう目指す人もいます。発言は、長すぎず簡潔に、しかし言うべきは確実に伝える、少しずつ慣れていきます。

 相手が沢山いるため、多国間で外交を主導していくのは簡単ではありません。主張に妥当性や説得力がある、加えて、賛成してくれる仲間が必要です。

他国の代表部、特に意見の近い国とは密接に協力し合う、意見の違う国には説得に努めるなど、日ごろから働きかけの連続です。事務局との連携も重要です。文書を基に議論を進めるのが普通なので、作成する立場の事務局とも連携することが重要になります。


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 OECD加盟38か国、基本的に価値を共有する国であり共通性はあります。国連になると、全世界の国、立場も利害も多岐に渡り、一層の調整努力、交渉力が必要になります。

国連改革、安全保障理事会の改革は喫緊の課題であり力が入ります。日本の地位に応じて、国際社会の重要なプレーヤーとして、高い期待があると同時に、大きな責任があります。

■写真:国際連合
<出典>外務省HP
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp_a/page22_001254.html

 このように、外交といっても、いろいろな異なる形態があります。さらに、それらが複雑に絡まっていて、大変興味深いです。皆さんには、ぜひ外務省に入って関わっていただきたいです。

外交官になるためには国家総合職と
外務省専門職の2つの道があります。
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