現役農大生社長が提案する、ちょこっとエコな『草ストロー』という選択
全世界で大きな問題として取り上げられる『海洋プラスチック問題』。
現在、年間約800万トンのプラスチックが海に流れ込み、これらのプラスチックは分解されるまでに100~200年かかると言われています。2050年には海のマイクロプラスチックの量が魚を超えるとされ、多くの海洋生物がプラスチックごみが原因で死に絶えています。
これらの環境課題へ目を向け、脱プラスチックのひとつの手段として「完全生分解性の草ストロー」を販売しているのが、東京農業大学3年生の大久保夏斗さんです。今回は、合同会社HAYAMI社長の大久保さんに、草ストローを始めたきっかけや特徴について伺いました。
※この記事は、2021年8月に行った取材に基づいています。
SDGsのお取り組みポイント
好循環エコサイクルの取り組みを行っています。
1
「完全生分解性」の草ストロー
無農薬・無添加・保存料も一切使用していないので環境にも人間にも優しい製品です。完全自然由来で生分解性のため、道端の草木と同じ様に分解され、自然に還ります。もちろん、うさぎややぎが食べても安全です。
2
発展途上国支援
草ストローはベトナムホーチミン郊外の農村地域で製造しており、仕事が減少する農村や印刷会社などの雇用創出に貢献しています。また、フェアトレードの観点から、適正な価格で取引し、販売しています。
3
プラスチック削減
1人当たりの使い捨てプラスチック消費量2位の日本において、プラスチックゴミの削減に貢献しています。
まずは、どのような事業をされているか教えていただけますか。
大久保:草ストローを日本に販売・普及するという事業を行っています。ストローが「完全生分解性」であること、ベトナムの農村支援につながっていることが大きな特徴です。
完全生分解性にはこだわりがありまして、素材のなかには限られた環境でしか分解されないものもあり、ごみになったときに少しでも分解されない部分があると海に残存してしまうのです。僕が草ストローに着目したのは「プラスチックストローが刺さってしまったウミガメの動画※」がきっかけでしたので、海に流されてもしっかりと自然に分解されることにこだわりました。
農村支援という観点でいうと、ベトナムのホーチミンから3~4時間ほどの郊外で原料となるレピロニア(カヤツリグサ科)という植物を栽培していまして、現地の方の雇用も創出しています。僕自身が大学で国際農業開発学科に在籍していて、農業を通じて海外の途上国を支援したいという思いがありましたので、このようなビジネスモデルにたどり着きました。
ストローといえば、プラスチックか紙かという認識でしたが色々あるのですね。草ストローの使用感はいかがでしょうか?
大久保:
紙ストローより使用感が良いと評判です。紙は水に長時間つけておくとふやけたり、口にくっついたりしますが、草ストローはそのようなことはありません。エコかつ使用感も良いというのは他製品との大きな違いだと自信を持っています。
見た目も薄い緑色ですので、抹茶系の飲み物の場合は雰囲気と合っていてかわいい、という声も聞きます。
SDGsはどのようなきっかけで取り組みを始めたのでしょうか。
大久保:
先ほど申し上げた「ウミガメの動画」がやはり一番のきっかけです。実際に血を流している姿は衝撃的で強いショックを受けました。それまでの僕は、小中高と部活一筋で周りのことにあまり目が向いていませんでしたが、偶然その動画を見たときに「世の中にはこんな問題があるのか!」という驚きと気づきがあり、環境問題に対する危機感を持つようになりました。
それから環境系のメディアや話題にアンテナを立てて、SNSや最新のニュースなどから積極的に知識を集めました。今では世界的なインフルエンサーの方もSDGsに関する投稿をしていますので、若い世代でも学べる機会は多いと感じます。
もともと起業したいというお気持ちはあったのですか?
大久保: 起業したいとか、ビジネスをしたいというのはあまり考えていませんでした。 目の前に解決したい問題があって、その解決策として「草ストローを日本に普及してみよう!」と思ったときに、お客さまから「個人で販売するよりも会社として販売したほうが信用・信頼がある」とアドバイスをいただきましたので、法人を設立することにしました。
ゼロからの立ち上げで、不安はありませんでしたか?
大久保:
正直なところ、最初は本当に何もわからなかったんです。起業の方法もお金の稼ぎ方も、名刺の渡し方すら知りませんでした。笑 そういう状況からネットで調べて一つずつ進めていきました。
また海外とのビジネスになるので、お互いの文化の違いに戸惑うことは多々ありました。具体的に言うと、ベトナムでは納期は遅れるのが当たり前という文化ですので。笑 現地のスタッフとは何度も何度も話し合って、こちらが予め欲しい納期の1ヶ月前を伝えておくなど失敗から学んでいき、安定したサイクルを築いていくのには苦労しました。
創業が昨年5月と、コロナ禍のどまんなかですよね。現地とのやり取りなど不自由はありませんでしたか?
大久保:
僕自身は現地には全く行けていないんです。
共に創業した兄が、制限がかかるギリギリのタイミングで現地の視察に行けましたので、そこでマニュアルを整備することができました。現地とのやり取りについては特に問題はないのですが、日本の飲食店のほうがどうしても経営が厳しい状況ですので、プラスチックよりも値段の高い草ストローを導入する上でリスクが大きく、導入店舗数が思ったように増えていきませんでした。
草ストローはどのようなタイミングで広まっていったのですか。
大久保: 一番は、3,000店にメールや電話で営業した成果だと思います。コロナ禍で直接訪問しての営業は難しかったので、興味を持っていただいた方にはサンプルを送るなど地道にやって少しずつ増えていきました。導入店舗は僕たちのSNSでも紹介をして、そこから口コミで広がっていき、メディアに出たことで今では営業しなくても導入したいとお問い合わせが来るようになりました。現在は約180店舗で草ストローを使っていただいています。
草ストロー以外にもエコなアイテムを販売しているとお伺いしました。
大久保:
今年の3月からサボテン由来のヴィーガンレザーを使用した新ブランド「Re:nne」を立ち上げ、財布を販売しています。
草ストローの事業を始めてから色々な業界の方にお会いして、僕自身環境についての知識を日々深めていくなかで、ファッション業界が環境問題に与える影響が大きいと知りました。何か一つの選択肢としてエコなファッションアイテムがあれば良いなと思っていたタイミングで、メキシコにサボテンを粉にして革を形成する特許を持っているスタートアップ企業があることを知り、そこから革を輸入して、100%動物の革を使用しないサボテンレザーの財布を販売することにしました。
サボテンレザーは、質感がとても本革に近いのですが、製造工程を比べると二酸化炭素排出量を80%削減でき、有害化学物質も使いません。通気性が良く、ある程度の湿度や水分であれば問題なく、紫外線にも強いため牛革より手入れが簡単です。合成皮革や人工皮革は耐用年数が低く石油由来製品のため持続可能性が高いとは言いにくいですが、サボテンレザーは、100%天然素材であり、10年以上使用できる非常に耐久性の高い素材であることがお勧めできるポイントです。
今後の展開について教えて下さい。
大久保: まだ構想段階ではありますが、使い終わった草ストローをゴミとしてただ捨てるのではなく、土に還してその土を利用したり、あるいは動物に与えてゴミそのものを無くしたり、エコな循環サイクルを作っていきたいと考えています。ホームページにも載せていますが、草ストローは完全生分解性ですので、ウサギやヤギが食べても安全なんです!
最後に、環境問題に関心がある方へメッセージをお願いします。
大久保:
世の中には実は色々な選択肢がありますが、それに気づけない人が多いのかなと思います。
自分のなかにアンテナを張ったり、興味関心のある内容に一歩踏み込んでみたりすると知識が広がり、選択肢に気づけることがありますので、そのような意識で環境問題にも取り組んでいただければと思います。
- ウミガメの動画
海洋生物の研究者が調査中に発見したウミガメの鼻に刺さったストローを引き抜いて救助する動画が2015年に公開され、SNS等で話題となった。
ナチュラルな風合いが特別感のある一杯へ。
天然由来なのでヤギも食べれます。
原材料のレピロニア。
サボテン由来のヴィーガンレザーのお財布
会社概要
■社 名 合同会社HAYAMI
■代表取締役社長 大久 保夏斗
■設 立 2020年05月25日
■本社所在地 〒252-0239 神奈川県相模原市中央区中央1-12-20
■URL:https://www.hayamigrassstraw.com/
事業内容
■草ストローの輸入・販売・普及
従業員数
■3名