黒一筋100年『京都紋付』の伝統技術「黒染め」が地球環境を守る
シミや汚れの付着により着る機会のなくなった衣類を染め替えて再生する『REWEAR(リ・ウェア)』という考えをご存じでしょうか?
日本独自の「黒染め」の技術を活かして、お気に入りの1着をながく着まわすことで環境負荷を減らす「染め替え」を推進するのが、1915年創業 黒染め一筋の『京都紋付』です。年間250万トンの衣類が消費され、そのうち200万トンの衣類が半年以内に捨てられている日本の現状に一石を投じています。
今回は、京都紋付4代目 荒川徹社長に、染め替えへ取り組んだ経緯や社会へ広めるための工夫点などを伺いました。
※この記事は、2021年8月に行った取材に基づいています。
SDGsのお取り組みポイント
環境保全活動として以下の取り組みを行っています。
1
衣類の再生
シミや汚れなどで着れなくなった服を染め替えもう一度着られるよう再生させることで、衣類の廃棄量削減に貢献しています。
2
染め替えパートナーの構築
多くの事業者を染め替えパートナーとしてネットワークを構築。パートナー事業者は、プラットフォームとして染め替え事業をサポートする活動を行うことでSDGsに寄与でき、環境負荷を低減させる「染め替え」への理解を広める役割を担います。
3
アゾ不使用宣言
発がん性のあるアゾ染料の国内での使用が禁止される以前から自主的に不使用とし、安全性の確保に努めています。
まずは、どのような事業をされているか教えていただけますか。
荒川:「京都紋付」と申しまして、1915年に創業してからずっと黒染め一筋の会社です。30年ほど前は業界全体で年間300万反を染めていましたが、冠婚葬祭時に自分の正装を着るより身軽なレンタルを選ぶようになったことなどから和装離れ・正装離れが進行し、現在では年間5千反ほどです。130事業所ほどあった京都黒染協同組合の組合員も今年で3事業所まで減ってしまいました。私の娘にも、昔では当たり前だった嫁入り道具の黒紋付(喪服)を「持っていかない」と言われた時に、業界の衰退をより感じましたね。
衰退する伝統産業とはいえ、守らなければいけないという想いもある中、和装だけにこだわっていては会社を持続できないとわかっていましたので、なにか事業転換をしなければとずっと悩んでいましたが、3年連続で赤字をだしてしまい、それが本業の黒染めを縮小し、本格的に洋装に展開する事業を始める決めてとなりました。
業界が衰退していくなか、危機感を感じて新しい事業を始められたのですね。
荒川:
それから、黒をより黒く染め同時に撥水効果まで現れる「深黒(しんくろ)」技術を洋装素材にも施し始めました。そのうちアパレルメーカーから染めの依頼が来るようになり、積極的にコラボレーションをして、衣類の黒染めを受注していきました。ChampionやVivienne Westwood、nano universe、URBAN RESEARCHなどコラボしたブランドは15社以上です。また伊勢丹や阪急などの百貨店とも協同してイベントを行いました。
そうした中で「黒染めを専門とする面白い会社があるぞ」と少しずつ評判が広まり、2013年に博報堂を経由してWWF(世界自然保護基金)から「PANDA BLACK※1」プロジェクトのお話をいただきました。これは、古着を黒に染め替えることで新品のように再生させ、衣服のリユースを促進することで環境保全を意識したライフスタイルを提案する企画です。本プロジェクトでは、全国に約500店舗を構える古着チェーンが衣類を受け付ける窓口となりましたので、「染め替え」の認知度が広まる大きな転機となりました。
大手アパレルメーカなどとの取引が始まっていった強みは何があったのですか?
荒川:
アパレル業界が持つ社会課題の一つとして、大量生産による余った衣類の大量廃棄があります。日本でも年間100万トンほど廃棄処分されているのが現状です。消費者は素材やサステナブルを意識しはじめる傾向にあり、企業自身もサステナブルファッションを取り入れるようになってきましたので、「染め替え」に興味をもってもらえたのかなと思います。
また、わたしどもの黒はオリジナルの染料を使用しており、アゾ染料※2を一切使用していません。着物にはアゾ染料の使用が認められているのですが、この染料は発ガン性物質を生成する恐れがあり、厚生労働省にて2016年に原則禁止となっています。こういった環境へ配慮した取り組みと「黒」をより「黒く染める」技術に信頼と共感していただいていているのだと感じています。SDGsへの貢献はもちろんのこと、「染め替え」がメディアなどで注目を浴びている要因の一つにそのスキームがあると思います。
私たちは染め替え代金の一部を代理店にバックする仕組みを運用しています。用途は自由ですので、WWFの場合は寄付となりますし、アパレルブランドの場合はお客様へクーポンを発行してもよし、従業員へ割引提供してもよし。つまり、代理店やお客様、全てに利益やベネフィットをもたらすビジネスモデルになっているのです。
環境負荷を低減しつつ、協力者・消費者にもメリットがある、まさに持続可能な取り組みですね。
荒川:
SDGsをきっかけに「染め替え」がさらに広まっていけば良いなと思います。衣類が染め替えできるということを知らない方がまだまだ多いので、ショップなどで商品を販売する際に、染め替え可能な衣類には「染め替え可能下げ札」や「染め替え可能織ネーム」をつけることを、各ブランドに推奨しています。またQRコードをタグにつけて、染め替え後の画像が見えるような仕掛けも考案中です。
ゆくゆくはクリーニングのように染め替えが当たり前になる社会を私は目指しています。そのためには、私たちだけでは難しく、様々な方に協力をしていただく必要があります。コラボレーションを進めている理由も一番は「広報活動」が目的です。
日本に「染め替え」という新しい文化を作ろうとされていらっしゃる。とても大きな目標ですね。
荒川:
最終的には世界的に広まると良いなと思っています。実際にニューヨーク・タイムズに取り上げられたこともあり、海外から衣類を送ってくださったお客様もいます。海外のどの国にも染め替えの文化はありませんので、ビジネスチャンスは大いにあると思います。
そこで、日本の伝統技術を集めたプラットフォームを作って、海外へ持っていくことも検討しています。日本には素晴らしい技術がたくさんありますが、時代の変化とともに衰退の一途をたどる企業は少なくありません。できれば新しい手段を講じて、日本の伝統技術が生き残る道を築いていきたいです。
私自身も、京都紋付の伝統技術を残すことが宿命と考えています。そのためコラボレーションをしている企業には、お客様に伝統技術についてお伝えしていただくことをお願いしています。衣類を再生することと、激減している京都の黒染めの技術を伝承すること。このふたつの両立が私たちにとってはとても重要なのです。
伝統技術を守り伝えていくことは100年企業としての責任でもあるのですね。その技術力の特徴を教えていただけますか?
荒川:
黒染め一筋100年の私たちが独自に開発した「深黒(しんくろ)加工」は、世界最高レベルの黒と自負しています。洗濯しても色落ちすることはなく、さらに生地の表面には汚れを弾く撥水効果が追加されます。
また独自の加工技術も持っており、絞り染めによりグラデーションなど柄をつけることも可能です。絞り染めはすべて手作業ですのでオンリーワンです。
業界が衰退し3年連続赤字というピンチからチャンスを掴む現在に至るまで、荒川社長は何が転機であったと考えますか?
荒川:
時代が後押ししてくれたなと思います。
正直、この染め替えが軌道に乗らなければ本業を辞めていたと思います。黒染めの技術を他に活かせるところが見つかったことは本当に幸運でした。
メディアも「新しい」「面白い」と思ったら取材に来てくれますので、そうして私の想いを喋っていると共感する人がまた近づいてきてくれて、その人がまた広めてくれる。本当にありがたいことです。
事業承継についてはどのようにお考えですか?
荒川: 私自身は38歳で社長になりました。息子は現在32歳ですが、あと6年後にはビジネスモデルの形もできていると思いますので、そうしたら息子に任せても良いと考えています。経営者に重要なのは、人脈とアイデアです。アイデアは「仕事に対する想い」があれば生まれてきますので。
最後に今後の目標を教えて下さい!
荒川:
『京都紋付の黒染めはこれ!』という商品を1点だけ作りたいです。私たちの技術が詰まった、それを見れば品質がわかる1点。素材も厳選して高品質で高価なTシャツが良いかなと思っています。
あとは先程も申し上げたとおり「REWEAR」という新しい文化と京都の黒染めという伝統文化を伝えていくことで、地球環境を守っていくこと。そして、染め替えという選択肢が当たり前となる社会を創っていきたいです。
- PANDA BLACK プロジェクト
世界自然保護金(WWFジャパン)が京都紋付と組んで実現させたプロジェクト。古着を黒に染め替える京都紋付のサービスを利用することでWWFジャパンに寄付が行われる企画(2013〜2016年で終了)。 - アゾ染料
衣服などを染色するために一般的に使用される染料。そのうち、発がん性のある化合物(特定芳香族アミン)を生成するアゾ染料の使用が平成28年より規制されています。
染め物一筋の老舗の門構え
深黒加工を施した生地と違いは明白です。
黒一色の統一感がかっこいい。
黒の染め上がりも生地によって風合いが変わって味わいがあります。
会社概要
■社 名 株式会社 京都紋付 KYOTO MONTSUKI CO., LTD.
■代表取締役社長 荒川 徹
■設 立 1969年1月17日
■本社所在地 〒 604-8823 京都市中京区壬生松原町51-1
■URL:http://www.kmontsuki.co.jp/
事業内容
■染色加工業(京黒紋付染め、洋装、染替え事業 あらゆる素材の黒染め)
KUROZOMEデニムの販売、着物メンテナンス事業