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全国各地の中小企業へインタビュー

北の大地で頑張る企業 株式会社 木舎
極寒の地、オホーツクに建てる「自然素材の無暖房住宅」

2022.8.4

中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、日本の住宅産業でいち早く無暖房住宅に取り組む株式会社 木舎の代表取締役
梅津敏行さんにお話をお聞きしました。

企業経営アドバイザーコラム


梅津敏行 株式会社 木舎 代表取締役 
1955年、北海道美幌町生まれ。1級建築大工技能士として自ら住宅建設を請け負っていたが、1996年住宅建設会社木舎を創業。2006年に日本の住宅産業でいち早く無暖房住宅に取り組む。
(インタビュー時の梅津社長以外の写真および資料はすべて木舎提供)

北海道オホーツク地区で、暖房がいらない無暖房住宅を建設する会社があると聞いた時、私は最初「オホーツクと言えば、流氷で有名、日本一寒い町と言われる陸別町も近い。そんな極寒の地で暖房が不要な住宅など可能なのだろうか?」と疑問を持ちました。そこで、今回は北海道オホーツク地区美幌町で、建物躯体の断熱・気密性を高めることにより、暖房がいらない無暖房住宅を設計・建設する株式会社・木舎の代表である梅津敏行さんを訪ねました。そして、北海道でも暖房が不要な秘密、木舎のこだわる自然素材の家についてお聞きしました。(聞き手・石田克己)

理想の家を自分で建てました

――まず初めに、梅津さんが木舎を創業したいきさつをお話しいただけますか。

木舎を創業する前は、他の工務店が請け負い、新建材なども使う一般住宅を、一大工として建てていました。しかし私は、住宅は木材を基本とした自然素材を使った家が理想だと思っており、自分が理想と思う家を建ててみたかったのです。そこで、まず自分の家を設計して自然素材のみを使って建て、塗り壁の施工、塗装までやりました。つまり、設計から施工まですべて自分一人でやり、自分が納得のできる家を建てました。その後、北海道が大好きで、大阪から北海道に毎年来られているお客様が私の家を見て、「弟子屈(摩周湖や屈斜路湖などのある自然豊かな地区)に土地を購入したので、この家のような自然素材のみを使った別荘を建てたい」と言われ、初めて自然素材のみを使用した家をお客様のために建てました。それが、自分自身で事業を始めたきっかけです。

――初めは他社の下請けの大工として、一般的な住宅建設の一部を担っていらしたのが、自分で会社を作り、自分の納得のいく自然素材の家を一戸すべて、自社で建て始めたのですね。いわゆる下請けからの脱却という大きな転換となったことが分かりました。

スウェーデンの建築家ハンス・エークを知る

――木舎を設立後に、北海道で無暖房住宅に挑戦しようと考えたのはどのようなことがきっかけですか。

無暖房住宅を建て始める3年ほど前の夏に、今はすでに閉鎖されてしまったのですが、帯広のグリュック王国というテーマパークに行きました。この日は北海道でも本当に暑い日で、現地に着いて車から降りると滝のように汗が流れ落ちたのを覚えています。テーマパークの中にドイツのビュッケブルグ城というお城を忠実に再現した建物がありまして、そこに入ったところ、あまりに涼しいので驚きました。こんなに大きな建物を冷房で冷やすのも大変だと思い、係の方に「お城全体を冷房で冷やしているのですか」と聞いてみたところ、「冷房は一切使っていないのですよ」という回答でした。冷房を使わずにどうしてこんなに涼しいのかいろいろと聞いてみたところ、建物の壁が厚く内部は外気温の影響を受けにくいことが分かりました。

このように外気温の影響を受けにくい建物があることを実際に体験して、同じ原理を逆に使えば、冬でも暖かい住宅ができるのではないかと考えました。北海道の冬は長く、その寒さも厳しいので、夏の暑さよりも冬の寒さに使えないかと考えたのです。そして、多くの文献を調べまくりました。その結果、スウェーデンのハンス・エークさんという建築家が、無暖房住宅というコンセプトで、暖房のいらない住宅をスウェーデンにおいてすでに何棟も建てていることを知りました。そのことが、無暖房住宅を始めてみようとしたきっかけです。

――冷房のない建物を実体験して、その原理を寒い北海道で暖房が不要な住宅に応用できないかと、逆転の発想をされたのですね。そしてその発想を実現するために、徹底的に調査をされて、海外では多くの実例があることを見つけられた、その探求心が素晴らしいと思います。
ところで、ハンス・エークさんが提唱する無暖房住宅とは、どのような住宅だったのですか。


無暖房住宅というのは太陽熱を室内に受け入れ、そのほか、台所のコンロや人間が出す熱だけで極寒の地スウェーデンで、暖房設備なしで暮らせる住宅のことです。3重ガラスの窓や数十cmもある断熱壁で室内の暖気を閉じ込め、設備に頼るのではなく、エネルギーを最小限に抑える究極のエコ住宅です。「パッシブハウス」*と言う言葉を耳にした事があるかもしれませんが、簡単に言うと、”冷暖房のいらない基準を満たした住宅”の事です。スウェーデンで初めて実用化され、その後ドイツ・カナダでも広まりました。

*パッシブハウス:「パッシブ」は英語で受け身の意味で、積極的な冷暖房が不要であることから名づけられた高性能の小エネルギー住宅。1991年にドイツのパッシブハウス研究所が基準を確立し、ドイツや北欧を中心に各国で広まり始めた。

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経済的でエコな住宅を

――ハンス・エークさんの資料を参考にして、木舎が提案する無暖房住宅とはどのようなものですか。

木舎の無暖房住宅では、断熱性能を徹底的に向上させています。断熱材は外壁と内壁で異なるものを使用し、全体の保温材の厚さは40cm以上になります。室内は防音性、耐火性にも優れるロックウール、室外は防露性にも優れるウレタン系のボードを使用しています。どちらも断熱性能に優れ、火災時にダイオキシンなどの有害物質を出すことがありません。このダブルの断熱材で冬の冷たい外気、夏の熱い外気からの熱を遮断します。

壁だけでなく、窓における断熱性能も重要で、窓ガラスは3重構造でガラスとガラスの隙間は断熱性能が空気よりも高いアルゴンガスを封入してあります。このガラス窓は、一般のガラス窓に比べて断熱性能が格段に高いために、窓での結露はありません。また、窓枠は樹脂やアルミに比べて断熱性が良くぬくもりを感じさせる木製窓枠を使用しています。しかし、実はこのような窓は残念ながら日本では製造されていないので、スウェーデンから取り寄せています。日本の建築材のほとんどは北海道のような寒冷地用にはできていないのです。
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換気方法もこだわり、北海道で開発された熱交換型の自然換気システムを使っています。このシステムにより熱ロスを抑えながら電力無しで24時間換気ができます。

基本的に暖房はいらない住宅なのですが、昼間人がいない場合などは、帰宅後にオイルヒーターのような小さな補助暖房機を短時間だけ使うこともあります。もしくは、お客様によっては薪ストーブを求められる方もいます。薪ストーブの炎の明かりやぬくもりが好まれるのです。その場合、木舎では性能的にも実用上も優れるアメリカのバーモントキャスティング社の薪ストーブをお勧めしています。この薪ストーブは見た目の美しさもありますが、燃焼効率もよく、煙突を2階に通すことで、この薪ストーブだけで2階も含めて一軒の家全体が十分暖かくなります。

――基本的には暖房が不要、もしくは短時間の補助暖房だけで十分な暖房効果を得られる住宅であることが分かりました。
ただ、「無暖房」を達成するために、スウェーデン製の3重ガラスの窓を採用したことや40cm以上もある断熱壁を使うという徹底したやり方は断熱効果を最大にすることができる一方で、コストがかかりすぎるのではないでしょうか。


その通りです。通常の住宅に比べると材料費や部材費がかかりますし、施工も難しいため、大工さんの数も限られ、その分高くはなります。ただ、私もその点は気になり、かなり詳細に調査、検討しました。北海道などの寒冷地の一般住宅では、各部屋に暖房器具が必要になり、また当然電気などのエネルギーも必要になります。そして、暖房設備は10年か20年の単位で取り替え工事が必要になります。そして、その暖房器具のコストと無暖房住宅で断熱性向上に要したコストがほぼバランスすることが分かりました。そして、暖房に使われる電気などのエネルギーがかからない分、無暖房住宅の方が経済的な住宅であることが分かりました。

――なるほど、初期費用はかかりますが、維持費やエネルギー費用を考えると経済的でエコな住宅といえるのですね。

はい、その通りです。ただ、それだけではありません。無暖房住宅は室内の各部屋の温度差が小さいことや、1日の温度変化も小さいことから、一般住宅に比べて住んでみると快適であると言えます。経済性からも、エコの面からもそして快適性からも無暖房住宅は優れており、私は自信をもって、お客様に勧められると、確信を持っています。

――木舎の住宅は暖房だけでなく、冷房も不要な無暖冷房住宅といわれていますが、冷房不要にできるのはどのような原理からなのですか。

最初にビュッケブルグ城のお話をしましたように、断熱性能を高めると、夏でも冷房が不要になります。北海道の場合、冬では外気温と室内温度の差は30℃以上にもなることがありますが、夏の場合暑い時でも外気温と室内温度の温度差を10℃以上にすることはほとんどありません。そのため、夜間に冷却された空気を室内に取り込んでおくと、昼間の外気温が高い時でも室内との温度差が10℃程度であれば、ブラインドやカーテンにより窓から直射日光を入れないようにしておけば、熱の入る量は少なく、冷房無しでも室内温度はそれほど上がりません。

――実際に無暖房住宅を建て始めたのはいつごろからで、今までに何棟建てられましたか。

2006年に知り合いの方が住宅を新築したいと来られた時に、無暖房住宅を提案しました。知り合いだったからなのでしょうか、無暖房住宅の言わば「実験台」になっていただくことを受け入れてもらいました。その家では手直しも多かったのですが、その後、3,4軒無暖房住宅を建てることにより、多くのノウハウを得ることができました。

その後、無暖房住宅の概念も知られるようになり、最近の注文はすべて無暖房住宅になっています。お陰様で継続的に注文があり、現在(2022年4月)までに46棟の住宅を完成させました。

――いかに良い製品であっても、お客様がその良さを分かって、最初に使っていただくことが大変です。その点、お知り合いの方が無暖房住宅を受け入れてくださり、その後は順調に注文が増えていったわけですね。

日本一寒い陸別町で無暖房?「陸別なめんなよ!」

――北海道という寒い地域で暖房が不要ということを、初めからお客様に理解していただけましたか。私も最初は理解できなかったのですが。

日本ではまだ無暖房住宅という概念が浸透していませんので、多くのお客様は暖房が必要ない住宅と言ってもなかなか理解していただけません。特に北海道では、多くの方に「北海道で無暖房住宅は無理でしょう」と言われました。2018年に日本で一番寒い町で有名になった陸別町に無暖房住宅を建設することに挑戦した時は、「無暖房?陸別なめんなよ!」と笑顔で言われたのを覚えています。そのような無暖房住宅を理解いただけない方のために、木舎では完成させた無暖房住宅のオーナー様のご協力により、完成住宅見学会を開催して、実際に暖房無しでも暖かい家を実感していただいています。2018年には、今話しました陸別町でも無暖房住宅の見学会を開催し、実際に無暖房住宅を体験していただくことで、冬でも暖房無しで暖かいことを実感していただきました。

――お客様に無暖房住宅を理解していただくために、見学会で実体験していただくという「現場重視」の発想、そして日本一寒い町陸別町で、無暖房住宅を建てようというチャレンジ精神が素晴らしいと思います。

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おしゃれで頑丈、そして住んでみて快適で健康的な家を

――木舎の住宅が暖房不要だということは分かりましたが、無暖房ということ以外に木舎が大事にしていることはどのようなことですか。

木舎の家は、現在無暖房という「断熱性」が売りなのですが、実は最初は「意匠」つまりおしゃれなデザインが売りだったのです。無暖房住宅は体感しないとなかなかその良さが分かってもらえないのですが、デザインは見てわかります。そのため、初めの頃は、木舎が完成させた家の外観を見て、ほかの方が注文してくださいました。実際、当初は一般住宅よりも、デザインを重視するペンションやレストランの注文が多くありました。この意匠へのこだわりは今でもありますが、住んでみると意匠の良さとともに、性能面が気になります。そのため、今は意匠も性能も良い家を目指しています。

――なるほど、木舎の住宅が当初はデザインが売りだったというのは少し驚きました。デザイン以外にも何か特徴はありますか。

私は実は普通の家は建てたくないのです。無暖房でおしゃれな住宅、さらには頑丈で快適、健康的な家を建てたいのです。
そのため、構造も重要視しています。木材のような自然の材料を使いながら、頑丈で耐震性の高い躯体にしています。躯体は柱、梁に筋交いを入れた一般的な木造軸組在来工法に加え、構造用面材を用いて建物にかかる負担を効果的に分散する2×4工法の両方を取り入れています。このハイブリッド工法により、一般的な木造住宅に比べて高耐震性を実現しています。つまり、頑丈な住宅といえます。
材料にもこだわっています。価格は高いのですが、土台には強度の高いヒノキやヒバを使っています。また、床には足触りの良いパインの無垢材を使用しています。主要な部材である木材も必要な場所には外国産の木材を使っています。今までロシア産の木材が多かったのですが、ウクライナ危機で手に入りにくいので、現在の主流はカナダ産になっています。寒冷地に建てる住宅には寒冷地で育った木材の方が適しているのです。このように、構造面でも材料面でも優れているため、木舎の家は100年以上の寿命が期待できます。
室内の家具やドアは木材を使用して、大工と建具店の合作で手作りします。建具は技能五輪チャンピオンの方がいる店にお願いしていますので、見栄えもよくしっかりしています。

――木舎の住宅が頑丈にできていることも分かりました。先ほど健康的な家にしたいと言われましたが、どのようなことでしょうか。

木舎の住宅の内装は全て、昔ながらの海草糊で練った防腐剤などを含まない漆喰仕上げにしています。化学物質を含まない漆喰のため、健康にも悪影響がなく、漆喰の調湿機能により部屋の湿度を保つ効果もあります。
壁紙には、コウゾ等の自然の植物を原材料として、身体に害がなく燃やしても環境を汚すことがない和紙を使っています。和紙は呼吸しているため、自然に室内の湿度やホコリを吸収する性質があり、時間の経過とともに風合いが良くなります。
塗装では、防腐、防虫、防水、抗菌作用があり日本固有の材料である柿渋をベースにした独自の塗装剤を使っています。また、接着剤には、科学物質を一切含まないこめ糊を主に使っています。こめ糊は食べることができる、無害で安全な接着剤です。成分が木と同じのため、木と一緒に収縮し接着力は木工用ボンドと同じくらい、耐久力は10倍以上になります。つまり、接着性・耐久性ともに優れた接着剤と言えます。
木舎の住宅には化学物質を使わないために、化学物質に過敏な方にも安心して住んでいただけます。ひどいアレルギー体質のお子さんがいるご家庭にも住んでいただいていますが、アレルギーが出ないと感謝されています。健康にもよい住宅を建てること、これも木舎の誇りです。

――健康的な家の意味が分かりました。材料一つ一つを吟味して、自然素材の健康に良い材料を使っているこだわりの住宅を建てていらっしゃるのですね。 今までお聞きしてきて木舎が機能的にもデザイン的にもそして構造、健康面でも良い住宅を建てていることが分かりました。
そこで一つ教えていただきたいのですが、同業の住宅建設会社が木舎のような無暖房をはじめとした特徴ある住宅を始めないのはなぜでしょうか。


材料のコストが高いことや輸入に頼らざるを得ない資材や家具などがあるために、無暖房住宅の建設コストは従来型住宅に比べて高くなってしまいます。また、住宅に気密性が要求され、壁厚が通常の何倍にもなるため、施工が難しく、熟練の大工さんにしか施工できません。そのため、材料費、人件費ともに高くなってしまうことや、大工さんの数に限りがあり、一度に何棟もの住宅を建設することはできないため、特に大手では参入する会社がいないのだと思います。
木舎では、カタログや展示場にコストをかけず、営業にも人をかけません。営業は、声がかかれば私が行って説明するだけです。また、最近はお客様から注文が継続していて、お客様に待っていただいている状態ですので、大工さんなどに手待ちがありません。そのために、人件費は必要最低限しかかけずに済んでいます。

――熟練工の数は限りがあるため、同時に何棟も建てられないこと、営業や広告などにはコストをかけないなど、小さい会社だからこそできることに取り組んでいることが分かりました。それでは、最後に、今後木舎の経営をどのように進めていきたいか教えていただけますか。

「年月が経つほど味わいが深まり美しさが増す、そして長く住み続けられる家を建てたい」それが木舎の変わらぬ信念です。それが可能なのは、自然素材のみを使った家だと思っています。自然素材の家は、職人でなければ創ることができませんので、本来とっても手間暇がかかります。その自然素材の家づくりを迅速に合理的価格でご提供するには、長年の工夫と努力、技術蓄積が必要ですので、その技術をこれからさらに向上させていこうと思っています。そして、住む人の生き方や願いをじっくりと聞いて、木舎独自のデザインと性能を加えて、住む方が一生快適に暮らせ、誇りを持てる住宅を、これからも建てていきたいと思っています。

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おわりに

今回のインタビューを通じて、私自身も多くのことを学びました。極寒の地で無暖房住宅という他社が思いつかないことを発想すること、そしてその発想を実現するための努力と探求心、他社と差別化された商品の機能、品質をとことん高めるこだわりの大切さなどを教えていただきました。

中小企業が大手と同じことをやっていては、なかなか競争に勝てません。その企業にしかできないこと、その強みを極限まで高めていくことが、小さい企業が進むべき道ではないかと改めて気づかせていただきました。

中小企業診断士
(一般社団法人東京都中小企業診断士協会 城南支部所属)
企業経営コンサルタント
石田 克己(いしだ かつみ)

※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。


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