カーボンニュートラルのために企業は何をすべきか?
2022.12.21中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、前回に引き続きカーボンニュートラルがテーマです。
はじめに
前回は、カーボンニュートラルとは何で、なぜ必要なのか、さらに世界や日本の取り組みについてお話をしました。今回はカーボンニュートラル実現のために企業は何を行うべきかについて説明していきます。
企業の脱炭素化への取り組み
脱炭素化への取り組み
注:nは回答企業数から「無回答」を除いた企業数。
出典:ジェトロ「2021年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
上図に示すように、脱炭素化への取り組みを既に行っている国内企業は全体の40.0%です。大企業では68.0%が取り組んでいるのに対して、中小企業では34.4%全体の約1/3の企業しか取り組んでいません。
次の章で述べますように、中小企業がカーボンニュートラルに取り組むことのメリットは数多くあります。そして、カーボンニュートラルに取り組んでいる中小企業はまだ1/3と少ないのですから、中小企業がこれらのメリットを享受するために今からカーボンニュートラルに取り組むとしても、決して遅いということはありません。
中小企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットは?
中小企業にとって、カーボンニュートラルを実践することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
1つめのメリットは、新たなビジネスを得るチャンスがあることです。太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギー市場やその構成部品市場への参入は企業にとって新たなビジネスチャンスとなるでしょう。
2つ目のメリットは、大手企業から受注できる可能性が高まることです。温暖化ガス排出量の算出は、サプライチェーン(*1)全体で行う必要があるという考え方があります。実際に、トヨタ自動車やアップルをはじめとする大企業は、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を掲げており、取引のある中小サプライヤーにも協力を要請しています。そのため、中小企業にとっては、カーボンニュートラルに取り組むことにより、大企業のサプライチェーンの一部を担う可能性が高まります。しかし、逆に言えば、取り組まないとサプライチェーンから外されるリスクが大きくなるとも言えます。
*1 サプライチェーン:供給連鎖ともいわれ、製品の原材料や部品の調達に始まり、製造、在庫管理、配送、販売、消費、廃棄までといった一連の流れのこと
3つめのメリットは、好条件の融資を受けられることです。気候変動対策や再生可能エネルギーなど、環境分野へ取り組むことで、金融市場からグリーンローンと呼ばれる好条件の融資を受けることが可能になります。実際に、日本政策投資銀行をはじめグリーンローンを実施する金融機関が増えてきました。
4つ目のメリットは、各種補助金が利用できることです。カーボンニュートラルに関連した各種補助金枠も新設されており、カーボンニュートラルに関連する新規事業に取り組むことによって、これら補助金を利用することが可能になります。詳細は後述しますが、ものづくり補助金において、第10次公募から登場した「グリーン枠」、事業再構築補助金において第6回公募での「グリーン成長枠」などがあります。
カーボンニュートラルをどのように実践したらいいの?
この章では、カーボンニュートラルを実践するにはどうしたらよいかを考えてみましょう。
CO2排出を低減するために、まずできることはエネルギー消費量を減らすこと、すなわち省エネルギーです。使用しない電化製品はスイッチを切るなどの節電およびLED照明や高効率のエアコンなどエネルギー効率の高い製品に変更することによって、エネルギー消費を抑えることができます。
省エネと同時に、一定量のエネルギーをつくる場合のCO2排出量(CO2排出原単位)を減らすことも必要です。電力部門では、太陽光や風力など再生可能エネルギーなどの非化石化をすすめること、あるいはCCUS(*2)電源により脱炭素化を進めることが、カーボンニュートラルを達成するための前提になってきます。中小企業においては、電力を調達する際に、この脱炭素化電力を購入することで、自社のCO2排出を減らしたとみなされます。
*2 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、発電所から排出されたCO2を回収し別の製品製造に利用するか地中に貯留すること。
燃料を直接燃焼させるなどの非電力部門のCO2排出原単位をゼロにすることは難しいため、使用するエネルギーを電力に変更して上述のような脱炭素化電力を使うことでCO2排出を減らす方法があります。中小企業においても、電動自動車(EV)の導入や給湯器などの電化の促進拡大などが考えられます。
どうしても脱炭素化できない部門や、CO2の削減に膨大なコストがかかってしまう分野については、植林を進めて大気中のCO2の吸収量を増やしたり、BECCS(*3)やDACCS(*4)などのCO2回収技術を用いたりすることによって、大気中のCO2を減少させることができます。中小企業において、BECCSやDACCS技術そのものの開発ができる企業は多くはないですが、その技術に必要な部品を開発することは可能です。また、敷地内に植物を植えることにより、社員の憩いの場を作るとともに、CO2吸収量を増やしてカーボンニュートラル実現の一助とすることもできます。
*3 Bio-Energy with Carbon dioxide Capture and Storageの略で、バイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留する技術
*4 Direct Air Capture with Carbon Storageの略で、大気中にすでに存在するCO2を直接回収して貯留する技術
補助金や助成金にはどのようなものがあるの?
民間企業のカーボンニュートラルに関する投資などをバックアップすることを目的に、新しい補助金枠が設けられました。ものづくり補助金において、2022年2月16日に開始された第10次公募から登場した「グリーン枠」、事業再構築補助金において2022年3月28日に開始された第6回公募からの「グリーン成長枠」などがその例です。
ものづくり補助金グリーン枠固有の応募要件は、次の2つです。
① 3~5年の事業計画期間内に、事業場単位または会社全体での炭素生産性(*5)を年率平均1%以上増加する事業であること。
*5 炭素生産性=付加価値額/燃料の燃焼で発生・排出されるCO2
② これまでに自社で実施してきた温室効果ガス排出削減の取組の有無(ある場合はその具体的な取り組み内容)を示すこと。
炭素生産性を向上させるためには、燃費効率の良い設備に刷新することや、製造工程を見直して排出CO2を減らすことなどが求められます。
このように、グリーン枠では通常の付加価値額の増加だけでなく、炭素生産性の向上や温室効果ガス排出削減の取り組みも求められます。そのため、他の応募枠と比べて適用が難しい面もありますが、その分優先的に採用される可能性が高いのではと考えられています。
事業再構築補助金「グリーン成長枠」では、事業内容が前回説明しましたグリーン成長戦略で定められた重点14分野に限定されています。その分、対象企業が限られるでしょうが、逆に言えば、この14分野の課題解決に関する事業アイディアを考えることができれば、この「グリーン成長枠」は活用しやすいと言えます。「グリーン成長枠」の対象となる想定事例としては、「航空機部品製造で培ったノウハウを活かした、水素ステーション用部品の製造を行い、事業再構築を図る」などがあります。
さらに、都道府県単位でもカーボンニュートラル関連の補助金や助成金を拡充しています。例えば、東京都ではLED照明機器や高効率冷凍冷蔵庫などの省エネルギー機器導入や建物への断熱塗装などの断熱改修にたいして、助成金を用意しています。
おわりに
2回のコラムで、カーボンニュートラルとは何かから、企業がどのように取り組むかを説明してきました。どの企業も今からでも決して遅くありません、自社のため、顧客企業のため、そして地球のために、カーボンニュートラルに向き合い、できることから始めてみましょう。
(一般社団法人東京都中小企業診断士協会 城南支部所属)
企業経営コンサルタント
石田 克己(いしだ かつみ)
※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。