カーボンニュートラルとは?
2022.11.30中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、カーボンニュートラルがテーマです。
はじめに
このコラムを読んでくださる皆さんも、カーボンニュートラルという言葉はよく耳にするし、「CO2(二酸化炭素)排出を減らすことなんだろうな」となんとなく分かっている方が多いのではないでしょうか。それでも、「カーボンニュートラルとは具体的には何を、どのようにやるのかまでは分からない」という方も少なからずいらっしゃると思います。このコラムでは、カーボンニュートラルについて何となくは分かっているのだけれども、くわしくは分からないという方のために、カーボンニュートラルとは何かからわかりやすく説明していきます。そして、このコラムを読んでくださった方が、「自分や自分の会社でも、カーボンニュートラル達成のためにできることからやってみようか」と、思ってくだされば幸いです。
カーボンニュートラルって何?
カーボンニュートラルは直訳すると「炭素中立」となります。この炭素とは地球温暖化の要因である温室効果ガス*1を指し、中立とは排出も除去もしない、実質ゼロにすることです。排出量をゼロにすることが難しい分野も多くありますので、これら削減が難しい排出分を埋め合わせるために、吸収や除去することで、差し引きゼロを目指すということです。
なお、ゼロカーボンという言葉もよく耳にすると思います。ゼロカーボンは厳密には温室効果ガスの排出をゼロにするという意味なのですが、カーボンニュートラルと同じ意味合いで使用されていることの方が多いと思います。
※1 CO2だけではなく、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含む地球温室効果を持つガスの総称
温室効果ガスが増えると何が起こるの?
産業革命後、CO2などの温室効果ガスの排出量が急激に増え、その結果地球温暖化が深刻化し、さまざまな影響がでてきました。
世界各地で最高気温が更新され、日本においても2018年、埼玉県の熊谷市などでは41度を超え、最高気温が更新されました。今年も猛暑だったことは記憶に新しく、東京や大阪などでも、真夏には35度を超える猛暑日は珍しくなくなりました。
また、温暖化の影響で、世界各地で異常気象が見られるようになりました。温暖化によって海水温が上昇し、水蒸気が増えたことによって、日本においては巨大台風や豪雨が増加しました。逆にヨーロッパなどでは、長期間雨が降らずに水不足になる地域が増えています。また、海面水温の上昇は海洋生態系へも影響をもたらしています。例えば、サンゴは、海水温度の上昇が続くと白化(色素が抜けて骨のように白くなってしまう現象)し、最終的に死滅してしまいます。そして、サンゴの死滅により、サンゴを住処としている多くの海洋生物も同時に絶滅してしまうのではないかと考えられています。このように、地球温暖化の影響は環境、生態系に深刻な被害をもたらします。
また、海水温度上昇による海水の熱膨張および氷河や南極大陸の氷の融解により、海面上昇が起こっています。1880年以降平均海面水位は23センチ以上上昇しており、この海面上昇速度は現在加速している状況です。海面上昇によりモルディブ諸島・ツバル・マーシャル諸島などの島国では多くの沿岸地域で浸水が確認されています。陸地が消滅し塩害による農作物への影響が出ており、その結果食料不足にも繋がっています。
この海面上昇は、島国である日本にとっても大きな脅威です。東京をはじめ、人口や産業が集中する大都市圏の名古屋や大阪の沿岸付近に広がっているゼロメートル地帯や低地において、水害の可能性など大きなリスクが懸念されています。
世界の対応はどうなの?
1997年12月に京都議定書が発効された後、当時対象外であった途上国は急速に経済発展を遂げ、それに伴って温室効果ガスの排出量も急増しました。そのため、2015年12月にフランスのパリで開催された国際会議(COP21)で新たな削減目標が話し合われ、ここで合意されたのがパリ協定です。
パリ協定は、2020年以降の温室効果ガス排出の削減を目指したもので、産業革命前に比べて気温上昇を2度未満に抑え、可能であれば1.5度までに抑える努力をすることが掲げられました。そして、このパリ協定は、京都議定書と異なり、先進国だけでなく途上国も含めたすべての国が対象となっており、CO2排出量の多いアメリカやインド、中国も同意しました。パリ協定は歴史上初めて、世界すべての国が参加する枠組みとなり、これを機に世界ではCO2排出を実質ゼロにすることが共通認識となりました。そして現在、日本を含む120以上の国と地域が2050年カーボンニュートラルという目標を掲げるようになりました。
この目標を達成することにより経済発展を妨げるのでなく、逆に成長の機会とすることが国際的な共通の考え方になっています。カーボンニュートラル達成に向けて、社会の構造を変革し、技術革新に向けた投資を行い、生産性を向上させることで成長するという考え方に変わっているのです。
日本での対応は?
日本においても2020年10月、菅総理が所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とカーボンニュートラル宣言を行いました。
さらに、この所信表明演説において「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策をおこなうことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です」と述べました。カーボンニュートラルを達成することで、環境対策と経済成長の両立を図ると考えたのです。そしてその後、2021年4月に菅総理は、「2030年までの二酸化炭素排出量を2013年度比46%削減する」と踏み込んだ表明をしています。
この2050年のカーボンニュートラルに向けて、2018年の実績と2050年の目標を表したのが、経済産業省 資源エネルギー庁が公表している以下の図です。2018年に12.4億トンとなっている温室効果ガス排出量を、排出削減と、吸収・除去を組み合わせ、差し引きゼロとすることが目標になっています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁HP
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html
このカーボンニュートラルを実現し、経済成長と環境適合をうまく循環させるための産業政策として、経済産業省を中心として「グリーン成長戦略」が策定されました。
「グリーン成長戦略」では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、今後、産業として成長が期待され、なおかつ温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野を設定しています。具体的には、エネルギー関連産業として①洋上風力、②燃料アンモニア、③水素、④原子力、輸送・製造関連産業として⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水産業、⑩航空機、⑪カーボンリサイクル、家庭・オフィス関連産業として⑫住宅・建築物/次世代型太陽光、⑬資源循環、⑭ライフスタイルが選ばれています。14分野は幅広く、成長のフェーズもそれぞれの分野で異なります。そのため、分野ごとに2050年までの「工程表」も合わせて作成しています。
「グリーン成長戦略」では、企業のイノベーションへの大胆な投資を後押しするため、この「工程表」で整理した、①研究開発、②実証、③導入拡大、④自立商用といった段階を意識して、それぞれの段階に次のような分野横断的な5つの主要政策ツールを打ち出しています。
(1)予算:「グリーンイノベーション基金」創設
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し、企業を今後10年間、継続して支援する。
(2)税制:脱炭素化の効果が高い製品への投資を優遇
税制面では、企業の脱炭素化投資を後押しするため、「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」をつくり、10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を目指す。
(3)金融:ファンド創設など投資をうながす環境整備
再生可能エネルギーや、省エネルギーなどでの革新的技術へ民間投資を呼び込むため、長期的な事業計画実現のための長期資金供給のしくみと、成果連動型の「利子補給制度」(3年間で1兆円の融資規模)を創設する。
(4)規制改革・標準化:新技術が普及するよう規制緩和・強化を実施
新技術の導入が進むよう規制を強化、導入をはばむような不合理な規制は緩和し、新技術が世界で活用されやすくなるよう、国際標準化にも取り組む。
(5)国際連携:日本の先端技術で世界をリード
日本の最先端技術で、世界の脱炭素化をリードするため、米国・欧州との間では、イノベーション政策における連携をし、アジア新興国との間では、カーボンリサイクルや水素、洋上風力、CO2回収といった分野での連携や、各国への支援を行う。¹
おわりに
今回は、カーボンニュートラルとは何か、温室効果ガスが増えるとどうなるのか、世界や日本はどのような取り組みをしているのか、などについてまとめました。次回はカーボンニュートラル実現のために企業はどのような取り組みを行うべきなのかを説明します。
参考文献
*1. 経済産業省 資源エネルギー庁HP.“カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?”.
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/green_growth_strategy.html ,(参照 2022-10-16)
(一般社団法人東京都中小企業診断士協会 城南支部所属)
企業経営コンサルタント
石田 克己(いしだ かつみ)
※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。