SDGs(持続可能な開発目標)とは?
2022.7.1中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、SDGsがテーマです。
近頃はやりのSDGsって、何でしょう。「名前は聞いて知っているけど、詳しいことはよくわからない。国がやることで、自分には関係ないのでは?」と思っている方へ向けて、今回の記事ではSDGsとは何かから順にわかりやすく説明していきます。
SDGsって何?
SDGsは一般的には「エス・ディー・ジーズ」と読み、これは世界共通の言葉です。皆さんの中でも、SDGsという言葉を聞いたことがある方が多いと思いますが、朝日新聞の2021年12月の調査によりますと、日本では76%の方が「SDGsという言葉を聞いたことがある」と答えています。前回の2020年の調査時点では同様の調査結果が46%でした*1ので、ここ1年でこの言葉の認知度が急激に増加したことがわかります。
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。特に「持続可能」という言葉が重要で、この言葉自体が現代におけるキーワードの一つにもなっています。それは社会も経済も企業も個人も持続可能であることが豊かになるために必要不可欠だからです。
SDGsは、2015年9月に開かれた「国連持続可能な開発サミット」で定められ、国際社会共通の目標になりました。このサミットにおいて、2015年から2030年までの長期的な行動計画である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、「誰一人取り残さない」をキーワードにして、多様性と包摂性のある社会の実現を目指すことになりました。
SDGsの前身は、2000年に国連のサミットで採択され、2015年の達成を目指したMDGsです。MDGsは、「エムディージーズ」と読み、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の略です。これは先進国による途上国の支援が中心で、「目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅」など8つの目標から成り立っていました。しかし、MDGsは2015年において未達成の課題が多く、また近年地球規模で解決すべき新たな課題も増えてきたため、先進国と途上国が共に達成すべき目標としてあらたにSDGsが設けられました。
SDGsの目標は?
SDGsでは、以下のような「17の目標」が定められています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
「目標1:貧困をなくそう」や「目標2:飢餓をゼロに」などのように、目標1から6は発展途上国向けの支援のように見えるかもしれません。しかし、日本のような先進国にとっても、一般の方々よりも少ない収入で暮らしている方々を相対的貧困と言い、十分な食事がとれない方々も少なからずいます。このことは、大きな社会問題になっており、日本においても貧困や飢餓が重要なテーマになっています。
さらに、目標7から12は「目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「目標8:働きがいも経済成長も」などエネルギーや、働きがい、経済成長の話であり、これは先進国に関係が深いことが分かります。
そして残りの目標13から17は、「目標13:気候変動に具体的な対策を 」「目標14:海の豊かさを守ろう 」など、地球規模で取り組んでいかなければいけない課題です。
このように、17の目標には、主に発展途上国の問題を解決する目標から、先進国に大きな責任のある目標、そして地球全体が関わる目標まであります。また、一つの問題が、複数の目標に関係していることも多いことが特徴です。例えば、日本で2022年4月に施工されたプラスチック資源循環法に合わせて、ある飲料メーカーは2030年までにすべてのペットボトルをバイオマス(生物資源)材などの環境配慮素材にする目標を掲げています。この取り組みは、「目標12:つくる責任 つかう責任」に適応していると共に、ペットボトルが海や山に廃棄されたことの影響を考えると「目標14:海の豊かさを守ろう」や「目標15:陸の豊かさも守ろう」にも関わります。
17個の目標にはそれぞれ、具体的で詳細なターゲット項目があり、合計で169個のターゲットがあります。ここでは、それらの詳細説明は省かせていただきますが、中小企業でも実行可能な例をいくつか挙げておきます。
「目標12:つくる責任 つかう責任」は、持続可能な生産消費形態を確保することを目的として、各企業や個人に少ない資源で良質かつ大量のものを得られるような生産と消費の形態を求めており、次のように具体的なターゲットを持っています。
ターゲット12.3: 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。
このターゲット12.3の実行例としては、総菜を販売する店で、今まで売れ残った場合に廃棄していた総菜を、閉店前に割引して売りきることや従業員に割引価格で提供することなどが考えられます。また、今まで食べ残した料理を持ち帰ることをすすめる飲食店は多くなかったのですが、持ち帰り用のバッグを店で用意して、食べ残した料理はお客様に持ち帰っていただくことも考えられます。これらの例は、食品ロスを減少させる取り組みとしても有効ですが、店の売上や利益の増大、お客様や従業員の満足度向上にもつながることになります。
「目標4:質の高い教育をみんなに」は、すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯教育の機会を促進することを目的として、次のように具体的なターゲットを持っています。
ターゲット4.1: 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ有効な学習成果をもたらす、自由かつ公平で質の高い初等教育および中等教育を修了できるようにする。
このターゲット4.1の実行例としては、今まで成績上位者向けの受験コースしか持たない塾が、授業が分からず成績が低い生徒に対して、基礎から生徒の指導を行うようなコースを新たに設けることなども該当します。このことにより、より多くの子供たちが、落ちこぼれることなく初等教育および中等教育を修了することに、貢献できます。
企業がSDGsの17個の目標、169個のターゲット全てに関わることは現実的でないため、各企業が自社でできる身近で小さなことから始めることが、SDGsの取り組みには重要です。
なぜSDGsが広まったの?
国連は2006年に「責任投資原則(PRI)」を掲げ、投資家がESGの観点から投資すると持続可能な社会を実現するために役立つという考え方を示しました。ESGのそれぞれのアルファベットは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(統治)」を表しています。つまり、国連は「投資家は企業への投資をする際に、その企業が環境や社会への責任を果たしており、きちんと統治されているかどうかを重視すべきだ」という提言をしたのです。
しかし、ESGには明確な指標がないために、2015年に定められたSDGsがその指標として注目されるようになりました。そのため、SDGsを達成しようとする企業が投資の対象となり、自社の事業収益に直接的に関与しない目標であっても、SDGsの各目標に対しての企業の関心は一気に高まりました。
さらに、SDGsへの取り組みは、供給のどこか一つのプロセスだけでなく、サプライチェーン(※)全体で取り組む必要があるという考え方が浸透してきました。そのため、大企業がSDGsへの取り組みを進める時に、仕入先や下請けにも、同様の取り組みを求めるケースが増えてきました。つまり、SDGsへの取り組みをしていない中小企業は、サプライチェーンから除外されてしまう可能性がでてきたのです。そのため、SDGsは中小企業にとっても早急に取り組むべき課題になりました。
※ サプライチェーン:供給連鎖ともいわれ、製品の原材料や部品の調達に始まり、製造、在庫管理、配送、販売、消費、廃棄までの一連の流れのこと
日本はどの程度SDGsを達成したの?
では、日本はどの程度SDGsを達成しているのでしょうか。
Sustainable Development Solutions Network (SDSN)は国連加盟国のSDGs達成度をレポート公表しており、最新版が2022年6月に公表されました。
出所:SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT 2022
© Jeffrey D. Sachs, Guillaume Lafortune, Christian Kroll, Grayson Fuller, and Finn Woelm
上の図は、同レポートに掲載されている日本のSDGs達成度です。 目標タイルの色は達成度を表しており、日本は「目標4:質の高い教育をみんなに」、「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「目標 16:平和と公正をすべての人に」の3つの目標のみ達成(緑色)という評価になっています。*2
国連加盟193カ国において、2022年のSDGs達成ランキングトップ3はフィンランド、デンマーク、スウェーデンの北欧諸国で、その後ヨーロッパの国々が続き、日本は19位です。今年5月に来日して岸田首相と会談したのが、SDGs達成ランキング1位、フィンランドのマリン首相です。ご存じのように日本ではいままで女性が首相になったことはなく、女性国会議員(衆議院)の割合は9.7%、10人に1人以下です。一方、フィンランドでは、現役首相は36歳の女性、女性国会議員の割合は45.5%、半分近くが女性です。*3 このように、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」でも日本とフィンランドでは大きな差があります。
また、2016年から2022年の日本のランキング(スコア)は以下の通りですが、2017年以降、順位が後退気味なことが気になるところです。
2016年 18位(75.0)
2017年 11位(80.2)
2018年 15位(78.5)
2019年 15位(78.9)
2020年 17位(79.2)
2021年 18位(79.8)
2022年 19位(79.6)
おわりに
今回は、SDGsがどのようなもので、SDGsの目標は何か、なぜ企業がSDGsに取り組むのか、日本はどの程度SDGsを達成しているのか、などについてまとめました。次回はSDGs実現のために国や企業がどのような取り組みを行っているかを説明していきます。
参考文献
*1. 朝日新聞社.“第8回SDGs認知度調査”.2022-02-24.2030 SDGsで変える.
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey08/ ,(参照 2022-05-25)
*2. Sustainable Development Solution Network (SDSN). “Sustainable Development Report 2022”
https://www.sustainabledevelopment.report/ ,(参照 2022-06-02)
*3. Inter-Parliamentary Union (IPU). “Monthly ranking of women in national parliaments”
https://data.ipu.org/women-ranking?month=5&year=2022 ,(参照 2022-05-25)
(一般社団法人東京都中小企業診断士協会 城南支部所属)
企業経営コンサルタント
石田 克己(いしだ かつみ)
※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。