コンサルティングの基本 あるある失敗談
その1 「前のめり:事前準備はほどほどに」
2022.4.25中小企業支援に役立つテーマのコラムを掲載します。今回は、コンサルティングのあるある失敗談がテーマです。
こんにちは、コンサルタントの仲田です。
今回は、「コンサルティングの基本 あるある失敗談その1」として「前のめり:事前準備はほどほどに・・・」の事例をお伝えします。以下の文章は実際の私の身近で起きた話です。それをデフォルメして書き直したものです。
ある時突然にそれはスタートした!
一本の電話とともに1件のメールで依頼案件がやってきました。その日の夕方、まだまだ経験が浅かったコンサルタントのA氏とB氏は、二人チームなら何とか乗り切れるとお互いに話合いを行いました。その後、依頼主に企業相談を2名で受けますと回答しました。まずは困っている企業様のお力になりたいと、二人共にとても熱く語り合い、スピリットは同じだと互いに確認出来て、とても嬉しい暑い夜を過ごしました。
事前準備時間はなかったが頑張った
依頼から企業訪問まで1週間も無い短期間対応でしたが、持ち前の気力とパワー、気合とド根性で寝る間を惜しんでがんばりました。二人で対象企業様の情報収集から商圏、業界分析、財務分析、仮説を立てて戦略の方向性も作り上げました。二人は、今回の相談だけでなくその後、継続して他にも2名で対応できる依頼をいただけるといいな、という目論見があったからです。
財務分析も事前にデータを送って頂いたので競合比較など隅々まで分析を行いバッチリでした。業界平均との比較も完璧です。どこが業務や戦略の改善点かも頭に入れてスラスラ言えるように、事前に役割分担も決めちょっとしたリハーサルも行いました。だいぶ分厚くなった資料も、画像では見えにくいと想定し、人数分プリントアウトし準備万端な状態が整いました。
短時間でよくここまで出来たと自分でも褒めてあげたい位でした。やっぱり大学院で学んだ知識は無駄でなかった、予備校の授業内容を覚えておいてよかったとお互いに心から安心した前夜でした。
そしてその日がやってきた
実はA氏とB氏の二人がリアルで会うのは、訪問日の待ち合わせ場所が初めてになります。待ち合わせ場所の駅の改札口で名刺交換をして、いざ訪問先の企業様のところまで歩いて5分。この間に互いの役割を確認し、資料分担を決めて企業様の入口前に到着しました。
今回、企業様をとりもっていただいた金融機関のC氏とこの場所で名刺交換を行い、簡単な挨拶と今回持参した資料を渡して2人の役割分担を説明しました。C氏は、少しびっくりした様子で資料をざっと一通り眺めていました。A氏とB氏は互いに見つめ合い「やったね!」と合図を送りあい、さぁやるぞぉ~~と心の中で叫んでいました。
面談する応接室に入り、経営者様が入ってくる直前に、C氏が一言「お話を始めるまえに、まず私から先方にこの資料について説明し、お二人をご紹介いたします。それからお話しいただけますでしょうか?」。もちろんA氏とB氏に異論はありませんし、ありがたい位です。二つ返事でうなずき経営者様がいらっしゃるのを待ちました。
そして面談がスタート。C氏は、A氏とB氏を紹介した後に、経営者様の発言をまず促しました。今回相談しようと思ったきっかけ、その内容、企業の現状、経営者の今感じていること、悩んでいること、気にかけていること、今までのこと、そしてこれからのプラン等など、一通り企業様のお話を伺った後に、A氏とB氏の資料の紹介がありました。
A氏とB氏の二人は待ちくたびれていました。寝る間も惜しんで資料を作りこんできたからです。二人のプランでは、既に先方の相談内容はC氏から伺っていたのでそれを前提に、訪問したら開口一番相談事に対しての、分析結果や業界状況・改善策や代替案などをお伝えするつもりでいたからです。
なのに、な~のに~、です。二人に与えられた時間は30分もありません。やっと資料の説明時間になったのは、会議スタートから1時間も過ぎたころでした。
急いで資料をメンバーに配布しA氏とB氏は事前の打ち合わせ通りに資料に沿って説明を始めました。経営者の方は、うんうん頷きながら聞きいってくださっています。財務分析もばっちり伝えました。業界平均からいかに低いか?そしてその乖離を解消するにはどうしたらいいか? 何が現状足りないのか? その解決策はどうしたらいいのか? 時々C氏が眉間にしわを寄せて聞いていましたが、ここは耳の痛い話だから、でも事実として言わないとね、と二人は事前ミーティングでも互いに認識を併せていました、そのため、想定通りの反応でした。
あっという間に30分超過し1時間後、資料説明も終わり、お暇することになりました。先方の社長様はにこやかに出口までお見送り頂きこの日の訪問は終了となりました。
満足いただけたご様子だったが・・・
A氏とB氏は、社長様が笑顔でお見送りいただいたのでご満足いただいたと思い、やり切ったという達成感と疲れがどっと出てしまいました。しかし別れ際のC氏の発言が2人の思いに水を差すことになります。
「本日の社長様のお話が本来の依頼内容でしたね。事前の依頼内容とだいぶ違いました。お二人の資料は大変よく作られていましたが、ちょっと今日の本題とは、ずれてしまいましたね。ま、先方の希望が変化したせいでもありますが。。。時々あるんです、変わることが。それに財務分析は、我々が定期的にお伝えしているので社長様は良くご存じだと思いますよ。耳の痛い前年度の結果を何度も言われるのはいい気がしないかもしれませんね、まあ事実なのでしょうがなくもないですが・・・、次回はまた社長様のご意向を伺ってから後日こちらからご連絡いたしますね。」
あれれ、何が悪かったのか?
A氏とB氏は、Web会議で今回の件を話合いました。先方の社長様は喜ぶと思って作りこんだ資料でしたが、C氏の評価は今ひとつ、社長も同じらしい。なぜなんだろうか?先方の希望がずれたことが原因だったら、しょうがない? いやいや何か忘れてる・・・・ 以前から資料の完成度では社内でも評価されてきたA氏と、頭脳明晰でスピーチもうまいB氏。何が足りなかったか?
そう、お判りですね。先方の要望を聞いて相談対応する目的が、既に立派な資料を作りこんでしまった為に、そこから抜け出せず現場の変化に臨機応変に対応できなかったことが今回のあるある失敗談です。
お相手も人間です。日々感情が変化し思いも変化します。それに合わせて対応出来ていたC氏はさすがです。社長の今の要望を先に聞き出していました。前回と同じ部分と違う部分も確認し把握していました。
2人はそれどころではなかったのです。資料を作りこみすぎて寝不足で参加し、面談当日前半の社長のトークをぼんやり聞き逃していました。2人とC氏では、今後社長に信頼される度合いにも影響が出てくると想定されます。事前準備はほどほどに、まずはお相手の話をよく聞くことが大切です。そこから次へ話が展開していくイメージを忘れないようにしたいものです。
今回は、あるある失敗談その1の事例を紹介しました。また次回以降あるある失敗談をお伝えできればと思います。
城南支部
中小企業診断士
仲田 香織
※当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、TAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。