事業承継の5つのステップ
事業承継は企業の将来を左右する重要なプロセスです。ここでは、事業承継を成功させるための5つのステップについて解説します。
ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
多くの企業が事業承継の準備が必要な状況にあるにもかかわらず、具体的な取り組みを行っていないことが問題視されています。このステップでは、事業者に対して事業承継の準備が不可欠であることを認識させることが重要です。支援者は、企業の未来を考え、5年後や10年後に向けた事業の持続性を見据えた「事業承継診断」や「対話」を通じて、事業者に準備を促す役割を果たします。
ステップ2:経営状況・経営課題の把握(見える化)
次に、事業承継に向けて、現状の経営状況や課題を「見える化」することが求められます。このステップでは、事業のしくみや事業価値を明確にし、後継者が経営を円滑に引き継ぐための基盤を整えることが目的です。支援者は「ローカルベンチマーク」※1などのツールを活用して、事業の状況や知的資産を理解する手助けを行います。
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
経営状況を把握した後は、実際に経営改善に取り組む段階です。このステップでは、事業者が自ら気づいた問題点に対して、解決に向けたサポートが期待されます。重要なのは、支援者が主導するのではなく、事業者が主体的に取り組むことで、実効性のある改善を目指すことです。
ステップ4:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継)/M&Aの工程(社外への引継ぎ)
事業承継計画の策定は、承継の成功に向けた具体的な道筋を描く重要なステップです。親族内や従業員への承継の場合、自社の状況を整理し、将来を見据えた具体的な計画を立てます。ステップ2で把握した経営状況・経営課題を念頭に置きつつ、「経営デザインシート」※2を活用して将来のビジョンを具体化することが有益です。一方、M&Aによる社外への引継ぎの場合は、M&Aの決断と適切なマッチングの進行が求められます。
ステップ5:事業承継の実行(親族内・従業員承継)/M&Aの実行(社外への引継ぎ)
最後のステップでは、これまでの準備をもとに、実際の事業承継を行います。事業承継計画やM&A手続に沿って、資産の移転や経営権の譲渡が行われます。税務や法務の課題に関しては、弁護士や税理士、M&A専門機関の協力を得ることが重要です。事業承継が完了した後は、成長・発展を目指した「ポスト事業承継」の取り組みが続きます。

以上の5つのステップを通じて、事業承継を成功させるための準備を進めることができます。適切な計画と実行が、企業の未来を切り拓くカギとなります。
経営承継アドバイザーは、事業承継の目的である、「事業そのものの承継や引継ぎ」に向けて、事業の持続性を高めたり、飛躍の機会にしたりする上で、事業者に寄り添い、事業者の目指す方向への歩みを具現化を支援する重要な役割を果たします。
- ローカルベンチマーク…企業の経営状態を把握するために経済産業省が開発したツール。企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うために活用することが期待されている。
- 経営デザインシート…企業等が将来の価値創造メカニズム(資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み)を構想し、その実現に向けた移行戦略を描くツールとして内閣府が推奨している。
コラム監修

大山 雅己(おおやま まさみ)氏
【経歴】
1987年:筑波大学卒、三井信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。個人相談業務、事業会社業務等を経て投資銀行部門にてDIPファイナンス、MBOファイナンス、M&A等の事業再生・事業再編・事業承継支援に従事。
2008年:ジュピター・コンサルティング株式会社設立 代表取締役就任、独立行政法人中小企業基盤整備機構 事業承継コーディネーター就任
2016年:日本証券アナリスト協会PB資格試験委員
2018年:合同会社ゆわく設立 代表社員就任
2019年:千葉商科大学商学研究科客員教授(中小企業経営管理コース 中小企業診断士登録養成課程)
メッセージ
中小企業基盤整備機構の事業承継コーディネーターとして、中小企業の承継問題にかかる施策浸透に向けた取り組みや支援マニュアルの作成等に深く関わってきました。中小・小規模事業者の事業承継を事業者の立場に立って支援できる人材がまだまだ不足しているのが現状です。「事業そのもの」の承継支援に本気で取り組みたい方は、ぜひ「経営承継アドバイザー」を取得してください。
事業承継支援を学ぶなら、経営承継アドバイザー