事業承継2.0~士業やコンサルタントが事業承継を支援する意義~
事業承継は、多くの中小企業で喫緊の課題となっており、税務や法務だけでなく、他の領域でも支援が求められています。この記事では、事業承継が企業経営に与える影響と、士業やコンサルタントがどのように関わるべきかについて考察します。
「事業承継」は、私たち一人ひとりの問題
まず、「事業承継」とは何か、多くの方はこれを税務問題や自社株式の問題として捉えがちです。しかし、実際には、事業承継はそれだけに留まらず、企業の存続や成長に直結する広範な問題です。たとえば、街中で見かける中小企業や小規模事業者のうち、約半数の経営者が60代に達しており、そのうち半数以上が後継者不在という深刻な状況に直面しています。後継者がいる場合でも、事業承継の準備が十分に進んでいないケースが多いのが現状です。つまり、街中で見かける企業の2社に1社は、事業承継に何らかの問題を抱えているといえるでしょう。
具体的な例として、匠の技術で定評のある製造業者A社を取り上げてみましょう。A社のバリューチェーン、すなわち[営業・マーケティング]→[材料購入]→[製造]→[検査]→[販売・配送]→[顧客に製品提供]という流れを見てみると、材料購入では仕入先、製造工程では外注先、配送では配送会社や商社が関与します。これらの関係企業もまた、1/2の確率で事業承継に問題を抱えている可能性があるのです。さらに、A社自身について考えると、60代のベテラン職人が支える工場が、5年後や10年後にどうなっているかは明らかではありません。
このように、バリューチェーンのいずれかの工程で問題が発生すれば、顧客に製品を提供できなくなる恐れがあります。事業承継は、単なる個々の企業の問題ではなく、地域社会や産業全体、さらにはその地域に暮らす私たち一人ひとりの問題であると認識すべきです。
「事業そのもの」の承継を重点に置く新しい事業支援
2017年版の中小企業白書では、事業承継を「事業そのものを次世代に円滑に引き継ぐ取り組み」と定義しています。この「事業そのもの」には、人(経営)・資産・知的資産(目に見えにくい経営資源や強み)の三要素が含まれ、これらを次世代に円滑に引き継ぐことが事業承継の課題となっています。
この定義に基づくと、事業承継を支援するということは、これら三つの要素を次世代にスムーズに引き継ぐための取り組みを支援することを意味します。経営承継アドバイザーは、この事業承継の重要性を理解し、事業者と寄り添いながら、彼らの魅力の源泉である知的資産を認識し、「対話の場づくり」を通じて次世代に引き継ぐ支援を行います。
このような視点と取り組みは、従来の税務や法務の問題解決に重点を置いた事業承継支援とは異なるため、「事業そのもの」の承継に重点を置く新しい事業承継支援の姿として、「事業承継2.0®」※と定義しました。
「事業承継2.0®」の取り組みは、事業者を「プレ承継期」・「承継期」・「ポスト承継期」といった各状況で支援し、事業者のニーズに即した支援を提供するものです。このように、経営承継アドバイザーの役割と機能が、より広範な視点で期待されているのです。
「事業承継2.0」は、合同会社ゆわくの登録商標です。
コラム監修
大山 雅己(おおやま まさみ)氏
【経歴】
1987年:筑波大学卒、三井信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。個人相談業務、事業会社業務等を経て投資銀行部門にてDIPファイナンス、MBOファイナンス、M&A等の事業再生・事業再編・事業承継支援に従事。
2008年:ジュピター・コンサルティング株式会社設立 代表取締役就任、独立行政法人中小企業基盤整備機構 事業承継コーディネーター就任
2016年:日本証券アナリスト協会PB資格試験委員
2018年:合同会社ゆわく設立 代表社員就任
2019年:千葉商科大学商学研究科客員教授(中小企業経営管理コース 中小企業診断士登録養成課程)
メッセージ
中小企業基盤整備機構の事業承継コーディネーターとして、中小企業の承継問題にかかる施策浸透に向けた取り組みや支援マニュアルの作成等に深く関わってきました。中小・小規模事業者の事業承継を事業者の立場に立って支援できる人材がまだまだ不足しているのが現状です。「事業そのもの」の承継支援に本気で取り組みたい方は、ぜひ「経営承継アドバイザー」を取得してください。
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